セット本の仕入れに行ったら、同じタイトルの本なのに、背表紙のデザインや大きさが違うものがあっちにもこっちにも置いてあって混乱したことがあるあなた!
小説とコミックには、大きさやデザインの違う本が、複数発行されているケースがあることを知っていますか!?
以前、ブックオフで仕入れることのできる小さな本について、解説記事を書きました。
今回の記事ではもう少し詳しく、国内作家の小説本がなぜ別形態で複数出版されるのかという点について、そして形態別の攻略法について、書いていきたいと思います。
小説ジャンルの出版形態
古本せどりで仕入れをする時には、それぞれのジャンルの棚を順番に見ていくワケですが、同じ作品が別の版でいくつも出版されていることがあります。
ここでは、私の敬愛する作家・森博嗣氏の「スカイクロラ」という小説を例にします。
「攻殻機動隊」で著名な押井守監督によってアニメ映画化され、一気に有名になった作品なのですが、原作となった小説は、3種類の形態で発売されています。
上画像の左から順に、単行本・ノベルズ本・文庫本です。※私物ですw
この作品は、ジャンルで言うと「国内作家小説本」になりますが、実際にブックオフのどこの棚に置いてあるかというと、
- 左の本⇒単行本・日本人作家あいうえお順「も」の棚
- 真ん中の本⇒ノベルズの棚
- 右の本⇒文庫本・日本人作家あいうえお順の「森博嗣」の棚
が定位置になっています。
日本出版業界における小説出版の流れ
なぜこのようなことが起こるのかというと、一つには日本の出版界の不思議な慣例?のようなものが原因となっていて、日本で出版される文芸的な作品は、まず最初にハードカバーの単行本で出版されます。
ハードカバーの単行本とは、A5サイズの表紙がしっかりした厚紙でできている本で、価格的には1,600円前後の値付けにされることが多いです。
この単行本が出版された後、ある程度売れた作品、または著名な作家な場合、3年~5年ほどで同じ出版社から文庫として出版されます。
文庫版は、価格的には大体600円前後。
ハードカバー版には手を出さないけど、文庫なら手軽だし、という理由で文庫化されるまで待つという読者も多いです。
最後に、真ん中のノベルズ版はどういうタイミングで出されるのかというと、文庫化される前、もしくは後に出版されます。
これは、最初に単行本でなくノベルズで出版され、その後文庫化されるケース。または、単行本で出て文庫になり、その後ノベルズ化されるケースなど、さまざまな場合があります。
複数形態で出版される理由の二番目は、対象としている読者が異なる、ということが挙げられます。
単行本は誰が買うのか?
単行本は、単価も高く、デザイン的にも一番優れているので、文学的に優れている本や芸術的なものを求めている人を対象として出版されます。
実際、この「スカイクロラ」の単行本のデザインは非常に評判が高く、「青空の写真と透明カバーが素敵すぎて、表紙買いしました」「普段は単行本買いませんが、本棚に並べたくて買いました」という声も多く聞かれました。
作者の森氏もこのデザインには特別の思い入れがあったようで、映画化に際して、ボックス入りフィギュア付きの特装版が販売されたほどです。
そしてもう一つ、単純に「発売が一番早い」そして、「文字が大きい」ということも単行本を購入する理由として挙げられます。
となると、特に持ち運ぶ必要がなく、好きな作家の新刊を家でゆっくり本を読みたい層。
そして、ある程度年齢の高い読者層も、積極的に単行本を購入していくと考えられます。
単行本の攻略法
それでは、これらをふまえて単行本の攻略法を考えていきます。
まず、コレクター的に揃えたい人向けであれば、状態の良い商品を揃える。特典がついている場合は特典もつける。
そして、単に発行の早さ・文字サイズの大きさを求める層には、そこまで状態は良くなくても、ある程度の価格であればOK。
というように、コンディションや価格帯を上手く組み合わせて考え、さらにヤフオクで売るのか、Amazonで売るのか、ということを考えて、仕入れて行きます。
単行本は、元の価格が高いことから、比較的利ザヤを取りやすい商品ですが、発行から年月が経ちすぎると市場にあふれてしまい、逆に利益を得ることができません。
作者の人気度や、中古市場にどれくらい出回っているか、そして発行からどのくらい経っているかなど、総合的に仕入れるかどうかを判断することが大切です。
ノベルズは誰が買うのか?
二番目が、単行本に次ぐ大きさのノベルズ版。
こちらは単行本と比べると出版レーベルが限られており、すべての本がノベルズ化されるという訳ではありません。
ノベルズ版の値段は、主に800~1,000円前後。単行本よりは手に取りやすいけれども、文庫版よりは少し高い、という位置づけです。
主に、ミステリ、ファンタジー、SFなどの作品がノベルズ化の対象で、純文学的な作品はほぼノベルズ化はしません。
現在はファンタジー作品というと、ライトノベルのレーベルから出版される作品が多いですが、ライトノベルジャンルが確立される前までは、ファンタジー作品はこのノベルズ版で出版されることがほとんどでした。
ですので、まずノベルズで出版されたものがその後文庫化、という順序で発行されます。
ということは、ミステリやファンタジー好きの人が、好きな作家さんの新刊を買うときは、単行本ではなく、こちらのノベルズ版で買う、ということになる訳です。
そして、ノベルズ本は、表紙や中身のイラストに著名なイラストレーターさんや漫画家さんが担当することも多く、ライトノベルのはしりとも言えます。
ノベルズ本の攻略法
文庫本は誰が買うのか?
そして最後が一番小さなサイズの文庫本です。
これは海外のペーパバック版のような役割があり、小さくて持ち運びしやすいこと、それから値段が安いこと、それから単行本にはない、”あとがき”や”解説”が付属することが特徴です。
冒頭に書いた通り、単行本やノベルズで出した本の廉価版として出版することが多いですが、描き下ろしで文庫をいきなり出す場合もありますし、ある程度売れた本を、版元を移動して再出版することもあります。
▲講談社文庫から出ていた有名シリーズを、角川文庫から出し直し。
また、版元が倒産してしまって、別会社で再出版というケース。
▲スコラ社が倒産してしまったので、メディアファクトリーが買い取って出版。
翻訳ものだと訳者を変えて新訳で出し直したり、ということもありますね。
▲ご存知、村岡花子訳の新潮文庫と、評判のいい掛川恭子訳の講談社文庫版。現在も両方の版が新刊で売られています。
それから、文庫化の際に大幅な加筆修正を入れるなどして、「完全版」の意味合いで出版する作家さんもいます。
そして、テレビドラマや映画化された時に、真っ先にメディア宣伝の表紙や帯が作られるのも文庫版です。
▲こちらは、メディア化と同時にしばらくアニメ表紙版が出回ったパターン。
▲こちらはアニメ版の表紙が全面帯として巻かれている作品。5巻のみ帯ではなく、通常版との両面リバーシブルカバーでした。
文庫版攻略:プレミア化するケースとは?
さあ、ここまで書けば、カンの良い方はお気づきでしょう。
この文庫のメディア化表紙版。
発行としては一時期のみ限定になりますので、人気作品であればあるほど、プレ値に跳ね上がる可能性を秘めています。
例えば、上の画像の「氷菓」シリーズ。
通常版の文庫5冊セットの価格は、1,500円程度なのですが、アニメ版の表紙セットだとこちらの値段。もちろん仕入れ値は、いつもの108円×5冊でした。
2002年のアニメ化から5年も経過しているにも関わらずこの値段がついたのは、実写映画化されたことも大きいですが、アニメ版の評判が高いことも挙げられます。
メディア化されてプレ値化する要因はいくつも絡み合っているので、メディア化すればどんなものでも必ず高値で売れる訳ではありませんが、そこには必ず理由がありますので、「どういう理由でこの値段で売れるのか?」ということを、ぜひ考察してみて下さい。
国内作家小説セット本・形態別攻略法まとめ!
いかがだったでしょうか?
同じ作品なのに形態が変わると購入する層が変わり、狙い目が変わってくる、ということが少しお分かり頂けたのではないかなと思います。
それでは最後に、今回の記事をまとめておきます!
- 日本で出版される小説は、まず単行本かノベルズ本で発行され、何年か後に文庫本が出るのが通例。
- 単行本:好きな作家の新刊を早く読みたい人向け。装丁や文字の大きさで選ぶケースも。
- ノベルズ本:SF・ファンタジーなど、純文学でない作品はノベルズから出版。イラストレーターが装画を描くことが多い。
- 文庫本:小説本の最終形態。解説や独自のイラストがついたり、単行本から完全改稿する作家さんも。メディア化の際には限定で帯などがつくため、プレミア化する可能性が高く、要チェック。
以上です!
今回は国内作家の小説ジャンルについて書きましたが、コミックも小説と同じように別形態で発行されることが多いジャンルです。
コミックについてはまた別記事で解説していきたいと思っております。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました(^^)/
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